4.12.2001

No.0091

色と心の関係

 私達は五感、即ち嗅覚・聴覚・味覚・触覚・視覚によって外部からの情報を得ています。この中で最も情報量の多いのが視覚で、この視覚からの情報の大部分は色彩からのものと言えます。皆さんの中にも「何故だか解らないけれども気分が良い、落ち着く、ウキウキする」とか、その逆に「気が滅入る、不安になる、不快になる」と言ったご経験をされた方がおられると思います。さて、その時皆さんの周りにはどのような色が存在していたのでしょうか?満開の桜のピンクであったり、真夏の抜けるような青空であったり、歯科医師の白衣であったり(嫌なんでしょうねーきっと)と好むと好まざるとに関わらず、私達は知らず知らずのうちに日常生活を取り巻く様々な色から影響を受けているようです。

 光や色彩によって私達の筋肉が緊張・弛緩と言った変化を繰り返す事を『トーナス』と言います。そして光の加減や色彩の変化による体の筋肉の緊張・弛緩現象を脳波や汗の分泌量から客観的に示したものを『ライト・トーナス値』と言います。
 一番弛緩した[正常値]が23で、ベージュ・パステルカラーがこれに近く、次いで青が24、緑が28、黄が30となり、橙の35で緊張興奮に変化し、赤は42と最高値を示し被験者の血圧までも上がってしまうそうです。心理的な影響と思われがちな色彩が生理現象としてはっきりと現れるのには驚かされます。

 さて、近頃は大変な『癒しブーム』ですが、その中の1つに『カラーセラピー』と言うものがあります。ご存知の方もおられるかと思いますが、『カラーセラピー』とは色彩が私達に与える効果を利用して心身のリラクゼーションを図ろうとするものです。
 それではここで色のもつ具体的な効果・性格やその活用例について幾つかご紹介いたします。

@暖色系・・・赤、黄など。
 これらは活力の色と言う性格を持っています。「赤色」は勇気や闘争心を、「黄色」は元気を呼び起こします。又、これらの色は時間の経過を長く感じさせると言う特徴もあります。具体例を申しますと結婚式の披露宴会場などは暖色系の内装や赤い絨毯等用いる事で、てきぱきと式が進んでいく割にはゆったりとした時間が流れているように感させる演出を見事にやっています。しかし究極の「赤色」の活用はやはり消防車でしょう。何と言っても全身「赤色」ですから。隊員の服装も基本は「橙色」ですし、ライト・トーナス値の上位2つの色を採用しているのです!!命懸けの江戸火消しの心意気や絶対に消し止めてみせるといった闘志溢れる意気込みをひしひしと感じるのは私だけでしょうか?。
 少々肩入れしすぎた感がありますが、実は義弟が消防署員なもので、その点はご容赦下さい。

A寒色系・・・青、グレーなど
 これらの色は、鎮静・抑制の色で、高ぶった気持ちを抑えるのに適し、集中力を高める効果もあります。又これらの色は時間の経過を短く感じさせると言う特徴もあります。アメリカのパトカーのパトライトに青色が採用されているのは興奮気味の事件事故現場の雰囲気を静める効果を狙っての事のようですし、時間の過小評価とい特徴と集中力を高めると言う点でみると勉強部屋には最適の色ではないでしょうか。

B緑など・・・緑、黄緑、ベージュ等
 これらは調和の色・心身の緊張をほぐす働きをもっています。癒しの色彩の代表と言えると思えるこれらの色は、昔から実に身近なところに当たり前のようにありました。
 最近は少なくなってしまったようですが、『和室』こそが癒しの色満たされた空間だったのです。調べてみるとライト・トーナス値23付近の色彩が実に多い事が判明しています。これは筋肉が一番弛緩できている状態、即ちリラックスできる環境にある事を示しています。

 それでは私共の携わる医療の現場では色彩・色に関してどのような事が行なわれているか考えてみましょう。病院の小児科や産婦人科の病棟・病室では色彩の工夫を施しているところもあるようですが外来や一般病棟・病室まで行なわれているところは少ないようです。コストの面などで所帯が大きければ大きいほど動きが取れにくく、したくてもできないと言う、やむにやまれぬ事情もあるのでしょう。
 その点比較的小回りの効く歯科医院では、早くから白衣の冷たい印象を払拭する為にパステルカラーの診察着を採用したり、寒々しい病室のイメージを払拭する為に内装をカラーコーディネートしたするという努力をしているところが多くあります。
 私達歯科医は患者さんの緊張をほぐそう、リラックスしてもらおうと一生懸命創意工夫しているのですが、それでも嫌なものは嫌・怖いものは怖い・できれば行きたくないと思われてしまうのは辛いところです。その上こんな事を書いたらますます嫌われてしまうんだろうなーとわかっていながら書く手を止められないのですが・・・。

 『真っ赤』に腫れた歯茎を見て『真っ青』になった貴方、それはお口の『黄色信号』です!!早目の受診をお勧めします!!・・・どうですか?・・・嫌われちゃったかな?
・・・心配だな・・・気を取り直して話を元に戻そう!はい、では元に戻ります。

 今の自分の気持ちは何色か、どんな色が足りないのか、どんな色の気持ちになりたいのか。めまぐるしく変化する日常生活の中でほんのひと時立ち止まって考えてみてはいかがですか。色の持っている性質を上手に取り入れることで日々の暮らしや気分に変化が生まれると、思わぬ効果が得られるかもしれません。たかが色、されど色です。

 私事ですが、最近少々疲れ気味ですので『緑色の服を着て』『観葉植物を眺めながら』『濃い目の緑茶を』啜る事にします、とりあえず。



神部先生

 

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