9.16.1999

No.0009

妊娠すると虫歯になりやすい?

『妊娠すると歯が悪くなる』という話があります。
実際、私の医院に来られる患者さんから、「赤ちゃんができたら歯が悪くなった。」と言われたことが、しばしばあります。 『妊娠で歯を悪くするのは、胎児が母親の栄養(特にカルシウム)を多く取り入れることが、原因なのだろう。』という俗説があるようですが、それは事実なのでしょうか。?

実際のところ、赤ちゃんの母親からの栄養摂取とその時期母親の歯が悪くなることとは、何の因果関係も無いのが事実です。ですから、「お腹の赤ちゃんの歯や骨のためにカルシウムをいっぱい取ろう。」と、小魚や牛乳を普段の何倍も食べる方がおりますが、それは少し間違っていないでしょうか。

ところで、「なのに妊娠中に母親の歯が悪くなるのでしょう。?」その答えは2つあります。

その1つは、「平時では心得ている《歯磨き》などのお口の衛生管理が、妊娠中はどうしても疎かになってしまう。」ということです。

2つ目は、妊娠によって体の恒常性(バランス)の阻害が起こり母胎を一種の虚弱化状態にしてしまうことです。
昨今少なくはないのですが、妊娠合併症(例えば妊娠中毒症など)の予備軍的状態の妊婦の方は、たとえ著名な症状が発症しないとしても、お口の中の自浄作用がかなり低下します。

これらこそが、虫歯や歯周病を発病させてしまう原因なのです。歯科疾患は、一旦発症すると自覚症状がでるまで一定期間を要しますので、多くは出産後に気がつき、結果「歯が悪くなってしまったのは、妊娠それも赤ちゃんにとられた栄養の不足が原因だ。」と錯覚してしまうのでしょう。

女性の体は、妊娠をすると必ず体調の変化を招じます。妊娠初期は特に、食事ができなくなったり(つわり)食事の趣向が極端に変わるのを皆さんもご存じでしょう。又、妊娠中期から後期にかけて、体重の著しい増加という変化も忘れてはいけません。

この様に平時とは違う体調の変化は、肉体状態のみならず精神状態へも大きく影響をもたらします。食事の取り方、食事の内容、食後等のお口の衛生管理等は精神的に支配された生活のリズムです。そのリズムが乱れてしまいやすいのです。

では、どうすれば歯を悪くせずに、無事妊娠期間を終えることができるでしょうか。?

その答えは・・・

実は、妊娠してから行動しても少々遅いのです。妊娠する前から始めなくてはいけないことがあるのです。
第一には、歯科医師にご自分のお口を徹底的に点検させることです。大ざっぱではいけません。
第二には、治療を要すれば応急的処置ではなく、一定期間(最低1年間ぐらい)は再発がないようなしっかりとした治療を受けておくことです。

妊娠中においては、お口の衛生状態を歯科医師に点検させ、必要とあらば歯垢や歯石(可能な限り無投薬下で)を取ってもらうことです。あせって、ビタミン&ミネラル剤やカルシウム剤などを多量に取ったりしないで下さい。あまり意味がありません。偏った食事をせず過食を避け規則正しい生活を心がけることが大切です。

そして何より大切なことは、母親自体があらゆる(不注意な風邪〜もちろん妊娠合併症予備軍状態も含めた)病気に罹らないことです。

そうすれば「赤ちゃんを産んだ為に歯が悪くなってしまった。」などと悔やまずに済むことができるはずです。そして、赤ちゃんもきっと元気に生まれてくると、私は思います。


白田先生

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