1.25.2001

No.0080

美を意識した歯科の恩恵を受けれる時代

 【審美歯科】というと“歯科医療”の新しい分野だと世間一般では思われているようですが、「美しい白い歯」への憧れは遙か昔も今に劣らず、変りのない人類の願望の一つのようです。

 古代ローマの市民、特に上流社会の人々は、現代の日本人のように飽食で、食事を楽しむ事に関心を持っていました。食事を楽しむために健康な歯が必要とされた事は当然の事であり、その為に特に歯の清掃には注意を払っていたそうです。 健康な歯を保つために爪楊枝を遣い、歯を白く保つために石膏のつぼに貯えた「尿」で毎朝歯を磨き、歯肉をこすると言う涙ぐましい努力をしていたそうです。
 そして、紀元5世紀頃までは[歯磨剤使用の思想]は、歯を強くしたり、虫歯にならないようにするといった「予防的な面」より、むしろ「口臭をなくし、歯を白くする」といった「審美的なもの」が中心であったのもオドロキだと思いませんか?
 健康な自然の歯をいつまでも保ちたいとする努力の跡は歴史上の多くの文献によって明らかにされていますが、また、健康な白い歯に対して憧れを持つ心は、詩や散文また格言の中にも多くみられます。古代ソロモン王の雅歌の中に『汝の歯は気を剃りたる牡羊の浴湯より出たるが如し』とあるように、白い歯は美人の表徴としてこんな古い時代からあったのである。
 つまり、西洋史のあらゆる時代に「白く美しい健康な歯」を持つ事が個人の衛生、美容の条件であったと言う事のようです。 

 身を美しくする技術は古代から医術の中に包合され[美粧医学](“decorativ medicine” decorateには飾り付けると言う意味と装飾品をつけて美しくすると言う意味があります)と名づけられ、18世紀頃まで理髪外科医が歯石をとり、歯を清掃し、美しくする仕事をしていた事を、前回私のコラムで紹介しましたが、この[美粧医学]は、まさしく、現在いう「審美歯科」の始まりであろうと思います。

 歯科医は診断、処置する科学者であると同時に、ずっと昔から歯の修復に機能的かつ審美的な姿と形を作り出す職人的な面がありましたが、現代は数多くの新しい審美歯科修復材料と技術の進歩と開発により、昔より、数段、数倍、芸術性が求められ、またそれが可能な時代になったのです。ただ病気治療としての「歯科分野」をこえて、美を意識した歯科の恩恵を受けれる時代になりました。皆様もその恩恵をすすんで享受しては如何でしょうか。



深井先生

 

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