1.11.2001

No.0078

音と音楽とその効果

 「胎教」の一つとして、ゆったりとした気分でよい音楽を聴いたり、波の音・川のせせらぎ・虫の声・鳥のさえずりといったリラックスの度合いの目安となるα波が出易いと言われる音を聴く事で、母体のみならず胎児にも良い影響を及ぼす事は良く知られています。 ご存知の方もおられるかと思いますが、音楽や音が及ぼす不思議な現象として、乳牛にクラシック音楽を聴かせると牛乳の出が良くなるとか、果樹園で音楽を流しながら栽培すると収穫量が上がったり糖度が増したりするとか、枯れかっかった観葉植物に音楽を聴かせたら元気になったとかという話を耳にする事があります。動物である乳牛の話は何となく理解できますが、植物にも影響を及ぼし効果が現れるというのには驚かされます。しかし、事実こういうことは起こるのだそうです。
 医療の現場では、この様な音楽・音の持つ心理的・生理的・社会的機能を利用して精神及び身体の健康回復・維持・改善を図ろうとする、音楽療法(ミュージックセラピー)というものが行なわれています。
 音楽療法には大きく分けて「受動的音楽療法」と「活動的(能動的)音楽療法」があります。前者は刺激療法と鑑賞療法に区別されますが、主に聴く事を中心にしたものです。これに対し後者は歌唱や楽器の演奏を自分で行なうというものです。欧米では既に臨床心理療法の一つとして、病院・老人ホーム・児童施設等で音楽療法士の元で盛んに行なわれています。我国では1986年に設立された日本バイオミュージック研究会(1992年に学会となる)が中心となって音楽療法についての様々な評価研究を行なっています。
 ところで皆さんは人が美しい・心地良いと感じる音の周波数は1〜6kHzの範囲にあるというのをご存知でしたか?童謡『虫の声』でも知られる鈴虫の「リ〜ンリン」という鳴き声は3.5kHz、松虫の「チンチロリン」という鳴き声は4〜5kHzですから、なるほど心地良く聞こえるわけです。但しこれは虫の鳴き声を大脳の言語中枢で声・言葉としてとらえる日本人ならではの事で、この鳴き声を音楽中枢でとらえる白人種にとってはノイズと感じる為、必ずしも心地良いものではないようです。
 それでは心地良くないというかあまり行きたくない場所として恐らくトップ5には入るであろう歯科医院を音楽・音という視点から見てみるとどうでしょうか。
 『音』に関して言えば、”キーーーーン”というエアータービン(切削器具)の音や超音波スケーラー(名前からして凄い、歯石等を取る道具)の”ギャーーーッ”という音等はどう贔屓目に見ても心地良いとはいえません。むしろ黒板を爪で引っかいたような音(書くだけでも嫌になりますね)に近く、歯医者嫌いを増長させている主因かもしれません。「我慢できる」と言う方はおられても「この音がたまらなく好き」と言う方はごくごく少数派ではないでしょうか。かく言う私も「慣れ」はしましたが「好き」にはなっていません。
 次に『音楽』に関してはどうでしょうか。待合室や診療室にBGMとしてクラシックやイージーリスニングが流されているところは多いと思います。しかしこれは不快音や騒音の相殺(マスキング効果)や作業効率の低下防止(主に中で働くスッタフに対しての)が中心であって、音楽療法のように患者さんへ積極的にアプローチするものではないというのが現状です。これからの歯科医院は「痛い・怖い」というイメージを払拭するだけではなく更に一歩進んで「リラックスできる」場所にするというのが一つの大きな課題ではないかと思います。
 歯科治療を受ける(歯医者に行かなければならない)という大きなストレス?のみならず、仕事、人間関係等日常的にストレスにさらされる事の多い現代は、いかにリフレッシュしリラックスできるかは心身を健やかに保つ為には大切な事です。お気に入りの音楽を聴いたり、気の置けない仲間とカラオケに行ったり、自然の中の心地良い音に耳を傾けたりする事は、『病気ではないが健康でもない』という現代人にとって、音楽療法の効果が充分に得られることと思います。

 胎教にクラシック音楽、赤提灯に演歌、パチンコに軍艦マーチ、寄席に出囃子・・・あなたをリラックス・リフレッシュしてくれる音楽・音は何でしょうか?



神部先生

 

BACK