11.30.2000

No.0072

食べカスと肺炎

 20世紀も残すところ、後1ヶ月となりました。来る新世紀はどんな世の中になっていくのでしょう。10年以上に亘る不景気や頼りない政治、そして保身的な行政、加えて黒船以来のグローバル化という世界観の変化等々には、私も不安感がつのるばかりであります。昨今は少子高齢化に端を発し、とりわけ社会医療をめぐるニュースはどれも芳しくはありません。21世紀は【医療ビッグバン】と言われる時代となります。コラムをご覧の皆さんの中で御存じない方の為に、ちょっとご説明しましょう。この【医療ビッグバン】とは、医療・保険・福祉の行政体系が一変することです。一口で言うならば『自分の身は、自分で守れ』と言うことです。「病気になってからでは、面倒は見きれないぞ。」「病気になる前に、自分でできる可能な注意を払っていろ。」という、姿勢に国は変わることです。その最大の理由は、国にお金がないからです。国の財政問題が解決されない限り以前の様な有利な厚生行政サービスはもう受けれないのです。と言うか、仮に解決されても元のような厚生行政サービスは行われないでしょう。だから、私達はこれからの厚生行政に対して、無関心でボヤボヤしていると、本当に後悔してしまう事になりかねません。
 では、変わり行く厚生行政サービスにどのように対応していけば良いのでしょう。それは、不用意な病気にはしっかり予防をすることしかないのです。些細な注意や備えで防げる病気はしっかり防がないと、一旦病気になってしまうと多大な医療費や介護費などがかかってくるだけでなく、命にも関わりかねないのです。
  そこで今回は、不用意な病気の中の一つである、高齢者の肺炎とりわけ不注意な原因で起こる【誤嚥性肺炎】についてお話をしようと思います。

 肺炎には大きく分けて市中肺炎,院内肺炎,誤嚥性肺炎,とあります。
 以下に簡単にご説明いたします。
1)市中肺炎:
肺炎球菌,レジオネラ菌,インフルエンザウイルス,マイコプラズマ,クラミジアなどの感染によりおこる肺炎(一般的な肺炎で例えば風邪をこじらせてしまって肺炎をおこしたなどと言われるものです)
2)院内肺炎:
MRSA,緑膿菌,などの感染によりおこる肺炎
病院内に限定された感染症で、時折ニュースでご覧になられてご存じの方も多いと思います。
3)誤嚥性肺炎
食べかすに付いたバクテリアなどの感染によりおこる肺炎
高齢になると、食べ物を飲み込む機能(嚥下機能)が不十分になってくることで、食道へ導かれるべき食べ物や飲み物が間違って気管や果ては肺までに入り、食べ物に付いたお口の雑菌(口腔内常在細菌)が肺などで増殖し炎症を引き起こす病気です。
実はあまり知られていないようなのですが、お年寄りの死亡原因の上位にある病気です。
加えて、食べかすの誤嚥による肺炎に注意するだけでは不十分なのです。平素の唾液の誤吸入にも注意が必要です。何故ならば、お口の汚れが放置されていると歯垢や歯槽膿漏の膿などが唾液に混ざって、その唾液を誤って吸い込む事が頻繁になされていると、体力が弱まっている場合と重なって、肺炎を引き起こす可能性を高めてしまうからです。

 さて、本題になりますが、【誤嚥性肺炎】を予防するにはどの様な点に注意をすればよいのでしょう。
 再び、以下に箇条書き致します。
1)食事(間食も含めて)の内容を考える
介護を要するお年寄りの食事は、流動食が多いのですが、特徴の一つに粘りを持ています。食物の粘りの代表的なものにグルテンがあります。グルテンの含有量の高いものは献立から避ける方がよいと思われます。
又、ナッツなど粉砕粒の物も誤吸引しやすい物ですので、注意が必要です。
2)食事(間食も含めて)の姿勢を考える
できるだけ寝たままの食事は、やめた方がよいです。万一誤吸引したりせき込んだりした場合に異物を吐き出せる格好が大切です。
介護される方は、注意しておくことが大切です。
3)食後の清掃
意外と疎かにされているのが現状のようです。しかし、ある意味このことが最も大切ではないかと考えます。
1本でも歯の残っている方は、念入りな歯磨きを怠らないで下さい。
今では、介護用の歯ブラシも市販されています。
入れ歯を使用されている方は、必ず食後の入れ歯の清掃は欠かさないで下さい。
因みに、入れ歯の清掃は、市販の入れ歯洗浄剤にのみ頼ってはいけません。必ず、ブラシで流水下で洗って下さい。
介護される方は、お口の中を必ず覗いて下さい。食べ残しが無いか点検が大切です。
舌の清掃も欠かさないで下さい。
食事の後、数十分間は胃から食物がもどってくる事があります。食事の後の清掃が完了しても 油断しないで下さい。
4)食後(間食も含めて)の姿勢を考える
食後すぐに横になっては行けません。
上記のように、食べた物が胃からもどることがあるので、注意をしておくことが大切です。 又、運動についても食後の胃の消化時間を確かめて行うことが大切です。

 体の運動機能に問題の無い方(介護の必要の無い方)、介護を要する方、そして介護をされる方々へ、このコラムが少しでもお役に立てれば幸いです。



古賀先生

 

BACK