10.19.2000

No.0066

理髪店の
グルグル看板

 その昔、中世ヨーロッパに於いてとても有名だった、ある*注‘理髪外科医’の著書に、[小外科の処置法]として、なんと歯石除去法や歯磨剤の調製法なども記載をされているそうなんです。
 歯磨き粉の作り方が外科の本に書かれているなんて、今の時代では想像できませんよね。
*注(因みに、現在では‘理髪外科医’と言う職業は存在しません。)
 身を美しくする技術や取扱は、古代から【医術,医業】に含まれ、その学問は『美粧医学』と名づけられていました。故に、‘理髪師’も整髪や髭剃りの業務の傍ら、医師の仲間として外科の仕事に携わっていたということです。
 中世ヨーロッパ時代、歯石を除去したり歯を清掃して美しくする仕事は、当然‘理髪師’の仕事だったそうです。
 又、その著書には「塩の水は歯を白くし、歯ぐきの潰瘍に良い。」とも述べられているそうです。「歯に生じる沈着物は、胃から上がってくる蒸気によって出来るので、毎朝歯をこすり清潔にしなくてはならない。それを怠ると、歯は変色し歯石に覆われ、しいては虫歯の原因となるので、これを取り除かねばならない。」とも述べられているそうです。
 このように、一般庶民の歯の清掃は‘理髪師’の仕事であり、抜歯を別にすれば、‘理髪外科医’の口腔治療は『清掃』であったといえます。これは18世紀まで続いていたそうです。
 この頃の家庭用の歯ブラシは、たいへん高価な物であったことから、一般庶民は彼らに口腔清掃を任せていたのだ、と言う事のようです。もちろん、理髪師の本業は整髪にあり、外科処置はあくまでも“サイドビジネス”だったのでしょう。

 ‘理髪師’が『外科医業』を行っていたという名残が、実は現在に残っているのです。それは、あの看板です。そう、白,赤,青,の三色からなるグルグル看板です。包帯シーツの「」,動脈の「」,そして静脈の「」,をそれぞれ表しているのです。フランスの‘理髪外科医’がこの看板を用いたのが起源とされているそうです。今度、看板を見かけたら、このコラムを思い出してみてくださいね。

 最後に、蛇足になっちゃいますが、おもしろ知識を一つ!。
 そのむかし、外科処置の治療料金は一定ではなく、その治療内容や状況に応じて患者は『お礼金』として外科医へ支払っていたそうです。その支払い方が元になって世間一般のサービスに対しても『お礼金』を払う慣習が広まりました。そして、ついには【その様な『お礼金』を入れてもらう為の箱】が置かれるようになりました。頂く側としては、少しでも多くの『お礼金』を頂きたかったのでしょう、箱の表には“To insure promptness”(迅速を保証する為に)と文句が書かれてあったそうです。
 この文句の頭文字をとると“Tip”となり、これがお礼としてあげる“チップ”の語源となった、という説があるそうなんです。

 参考文献;長谷川正康著「歯科の歴史おもしろ読本」


深井先生

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