矯正歯科治療を行う場合、いろいろな器具・器機が用いられます。今回のコラムは、患者さんのお口の中に着けられる器具の中で、患者さんの多くが最も気になっている器具についてお話してみようと思います。
その器具とは、1本1本の歯の表側(稀に裏側)に接着される【※ブラケット】と言われるものです。
そもそも、矯正歯科治療には、大きく分けて以下の3種類の取り組み方法があります。
- 小矯正治療{一部の歯並びを簡易的に治療する}
- 床矯正治療{入れ歯にも似た着脱可能な装置で治療する}
- マルチブラケット矯正治療{個々の歯に個々の留め具を着けて治療する}
これらの取り組み方法の具体的な違いについての説明は今回省略しますが、お口全体の総合的バランスを考えた矯正歯科治療では、現在【マルチブラケット矯正治療】が主流となっております。日本をはじめ世界各国において行われている矯正歯科治療である【マルチブラケット矯正治療】で、絶対に欠かせない装置の一つが【ブラケット】なのです。
矯正歯科治療はかなり古くから行われていたものですが、金属の加工技術が飛躍的に進歩した20世紀に入ってからは、一本一本の歯に金具を着けそれらを連結する1本ないし数本の細い金属線で治療する方法へとなりました。それ故に、【ブラケット】は矯正歯科治療では、金属器具の代表の様な物となりました。
しばらく【ブラケット】は金属製が当たり前の状況が続いておりましたが、更なる工業技術や化学加工品などの進歩により、最近では受療者(患者さん方)の要望『審美的に金属(金属色)を好まない』に則すことのできる歯色に類似させられる“プラスティック”や“セラミック”で作られる審美性優先の【ブラケット】が用いられるようになりました。
確かに、金属製ブラケットは見た目では可成り問題があることは事実です。例えて言うならば『お獅子』だの『ロボット』だのと、他人に嫌がられる理由を与えてしまう素に成りかねません。
ですが、素材を重視した考え方を優先すると、【金属製ブラケット】は現段階ではプラスティックやセラミックで作られた物【審美性優先ブラケット】より優れていることは事実なのです。
そこで、この両者の比較を簡単に示してみることにします。
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金属製ブラケット
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審美性優先ブラケット
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1.審美性
2.耐久性
3.操作性
4.威害性
5.アレルギー
6.虫歯誘発性
7.経済性
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×(−10)
◎(+20)
◎(+20)
○(+10)
△(±00)
△(±00)
○(+05)
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◎(+20)
△(±00)
○(+10)
△(±00)
△(±00)
△(±00)
△(±00)
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総合判断
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○(+45)
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○(+30)
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●評価及び点数:×(−10)問題有り,△(±0)可もなく不可もなく,
○(+5〜10)良い,◎(+20)かなり良い
■1〜7の評価項目についての特性の説明は省かせて頂くことをご了承下さい |
以上は、私個人が実際的に体験又は情報を基に割り出してみた表です。
この比較表からして、総合判断と優先判断とは必ずしも同調するものではありません。
矯正歯科治療は最終的に健康できれいな歯並び(噛み合わせ)にすることが目的です。治療はあくまでプロセスにすぎません。確かに、治療は長丁場ですから、その間の患者さんの生活を無視するものではあってはいけません。長期間に亘る矯正歯科治療が、その間の個人の生活を脅かすようでは、本末転倒です。ですから、審美性をどうしても優先せざるを得ない方が居ても当然の事ではあります。
が、しかし、やはり施術者(歯科医)の立場から考えますと、総合的に良い方法をお勧めしたいのです。矯正治療を希望される方々へは、先ず、総合的に良いものをお勧めします。ご相談の中で、どうしても審美性を優先なさりたい方はへは、治療上の不十分な点や欠点を理解して戴いた上で、前歯のみ審美性優先ブラケットを用います。
最後に申し上げておきます。一時、流行の様に【審美性優先ブラケット】を使用されていた多くの矯正歯科医達の中で、優れた矯正歯科医は、再び【金属ブラケット】の使用を患者さんへお勧めしています。これが現状なのです。
将来、更に科学技術の進歩によって、金属の特性を持った審美性を満足させる【ブラケット】が生まれてくるのを願っています。
注釈:研究社新英和中辞典(携帯版)より活用
※ブラケット[bracket]
1腕木[金];電灯受け,2張り出し棚,3括弧(かっこ),などの意味を持ちます
矯正歯科治療においては『線受け腕金』とでも和訳されるのでしょう?!
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