7.27.2000

No.0054

“総入れ歯”でも味は変わらない?!

 昔から『“総入れ歯”にすると、食べ物の味がわからなくなる』と、云われてきました。しかし、現在では迷信の一つと言っても差し支えないと、私は思います。

 確かに、昔の入れ歯は現代のものと比べるとかなり質の劣るもので、“総入れ歯”の台の部分が黒ずんでいたり、見るからに気味が悪いゴム状でした。又、話をしていても「“総入れ歯”だ!」と、すぐに判る代物でした。‘入れ歯’を作る技術においても、今日のように進歩していませんでしたので、装着の際の安定性がすこぶる悪い為、食べ物の味をゆっくり味わう心のゆとりが、恐らく持てなかったに違いないでしょうか。

 しかし、現代の‘入れ歯’は、材料も技術も昔と比べると、格段の進歩があります。床(喉を覆う所)も一般的には、プラスチックですが、薄い金属でもつくれるようになっていますし、人工歯も様々な種類のものが現在はあります。

 “総入れ歯”というのは、‘ブリッジ(固定式入れ歯)’や‘部分入れ歯’と違い‘入れ歯’を支えてくれる歯が一つもありません。ですから、うまく使いこなせるようになるには、ある程度の修練が必要な事はたしかです。といっても、昔の“総入れ歯”の様にお口に入れているだけで精一杯で、食べ物の味などを味わうゆとりなど無いという様なことは、まずありません。

 食べ物の味、(苦味、甘味、塩味、酸味)などを、口の中の何処で感じるかというと、味覚をつかさどる感覚受容器である、味蕾という細胞が、口の中の各所にあるといわれてますが、集中しているのは、やはり、舌の表面、舌縁に多く分布しているのです。ですから、総入れ歯で口の中を大部分覆ってしまっても、うまくかむ事さえ出来れば、味は少しも変わらないのです。

 又、味を感じる為の重要なポイントは、嗅覚です。食べ物を美味しいと感じる為には、食べ物の香りを感じることができれば問題はないのです。万一、食事が不味いと思われることがあれば、嗅覚異常を調べてもらうことも大切なことです。

 このコラムをお読みいただいている方には、“総入れ歯”の方はいらっしゃらないとは思いますが、雑学の一つとして又、親戚のお年よりの方との話題にでもしてくだされば幸いと思います。。


深井先生

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