7.13.2000

No.0052

言葉としての【歯】

 今回の私のコラムは、歯科医療・歯科医学としての【歯】ではなく、言葉としての【歯】について述べてみたいと思います。

 日本語にはその豊かな表現の一つとして、体の様々な部分を含んだことばがあり、その中には【歯】に纏わるものも多くあります。それでは早速その幾つかをご紹介しましょう。

  • 「歯が浮く」・・軽薄な行動やきざな物言いに対して、不快になる

  • 「歯が立たない」・・相手に敵わない。

  • 「歯がみする」・・怒りや無念のために歯を強くかみ締める。

  • 「歯痒い」・・相手の言動が自分の期待するようにならず、いらいらする・じれったい

  • 「歯軋り」・・非常に悔しい思いをする事。

  • 「歯に衣着せぬ」・・思った事を遠慮なくことばにする。ずけずけ言う。

  • 「歯の根が合わない」・・寒さや恐怖・怒りの為に歯をガチガチ鳴らして震え慄く。

  • 「歯の根を鳴らす」・・無念や怒りで歯をギュッと噛み締める。

  • 「歯向かう」・・歯を剥き出したり刃物を振り回して、積極的に抵抗する。

  • 「歯を食い縛る」・・怒り・苦痛・困難を必死にこらえる。

  • 「奥歯に物が挟まったような」・・思わせ振りにはっきり言わず率直でないこと。又は、心の中に何か引っ掛かる物がある様子。

  • 「櫛の歯が欠けたような」・・連綿と続いているはずの物があちこち抜け落ちている様。

 この様に【歯】にまつわることばを漁ってみると、どうも『ネガティブ』な印象を持つ意味の言葉が多い様に思われます。一般的に歯科治療を受ける事(歯医者にいかざるをえなくなった!)からイメージされるマイナスの面である『痛い・怖い・我慢・辛い』ということばと重なって見える気がします。昔の人も【歯】に対しては『楽しい・明るい・気持ち良い』といった印象はほとんど無かったのかと考えると、何だか寂しい気もしますが、ものは考え様で、これだけ多くの【歯】にまつわる言葉や表現があるということは、それだけ関心があり身近に感じていたのだろうと良いように解釈できます。能天気とのお叱りを受けそうですが・・・

 【歯】に限らず、探せば体にまつわることばは豊富にあります。これらを集めて一味違う言葉の使い手を目指してみてはいかがですか?

 さて、お読みになられて如何でしたでしょうか?

 「歯に衣着せぬ物言い」をしたつもりでしたが、「歯応え」はありましたか?「奥歯に物が挟まったような」言い方に思えましたら改めます。何せ、今日、私があるのも皆様の御蔭なのですから、「歯向かう」つもりは毛頭ございません。えっ?「歯の浮くような」事言うなって?・・・・何だか話の「歯車が合わなく」なってきたようですね。「歯止めが利かなくなり」そうなのでこれで終わります。

 おそまつ!! m(_ _)m


神部先生

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