先日、既に歯科治療の完了した当医院の患者さんから『先生!私、金属アレルギーになりました。』とお電話を頂いて、私は大変驚かされました。私も早、歯科医師になって20年間経ちますが、全く持って初めての経験でした。
この患者さんは、以前から通院している方で、今回以前にも金属の詰め物や被せ物を入れていたのですが問題は全くありませんでした。ですから、突然の知らせに本当に驚かされました。
『金属アレルギー』とは・・・
アレルギー反応(免疫反応)の一つで、この春猛威を振るった“杉花粉症”と同様の反応で、【ある種の金属】に【ある期間接触】していた為、体が感作し、次いで発症に至る病気(症状)のことです。
文献によりますと、1928年にFlushman,1929年にはBlumenthalがアマルガム(歯科治療で古くから用いられていた銀&水銀合金)の中の【Hg(水銀)】によって、口内炎などが生じたとの報道が最初で、以来いろいろな種類の金属による各種の疾患が数多く報告されております。
日本では、アマルガム中のHgが原因とされる扁平苔癬(へんぺいたいせん)の症例が最初だそうです。
『金属アレルギー』の症状には・・・
- 金属ピアスや【Pd(パラジュウム)】製ネックレスによる接触皮膚炎。
- 皮バンドのなめし用に使われている【Cr(クロム)】による皮膚炎。
- 【Pd(パラジュウム)】による掌足裏に限局して無菌性の小膿疱を生じる掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)。
- アマルガム中のHgによる扁平苔癬。
- 【Ni(ニッケル)】によるアトピー性皮膚炎。
- レジン床義歯による皮膚炎。
等々があげられます。
『金属アレルギー』に対する対応策は・・・
私たち歯科医も患者さんへの問診をしっかり行い、皮膚科或いは内科などの専門領域の医師との密接な連係治療が肝要と考えております。
実際に、アレルゲン金属を特定する方法として、最も箇便な方法としては《パッチテスト》があります。発症のしていない部分の皮膚にアレルゲンの疑われる金属その物、或いはその材質を代表する試薬等を貼布及び密封することで人工的に皮膚炎を起こし、その反応の程度によって、原因となるアレルゲン金属を特定する方法であります。
治療法としては、抗原除去療法として原因の金属を除去しなければならないのでその金属を含む詰め物や被せ物を除去し、アレルゲン金属でない物で、詰め直し・被せ直しをするようにしなければなりません。特に【Ti(チタン)】は金属アレルギー対策の有効な材料と考えられています。
この患者さんは、掌蹠膿疱症と診断され、慢性の炎症を起こしている扁桃腺の摘出を行い様子をみているそうですが、【Ag(金)】,【Z(亜鉛)】,【Pd(パラジュウム)】によるアレルギー反応も出ていたそうです。
『金属アレルギー』は、本人の無意識,無自覚のなかに成立しているので、これを予防するというのは、私達歯科医にとってきわめて困難です。しかし、ピアスや金属製品で湿疹やかぶれ等の既往(今までの体験)を持っている人に対しては、金属による歯科治療を施す前に予め《パッチテスト》をできるだけ行い、アレルゲン金属を特定する様努め、そのアレルゲンを含まない材料を使用して、発症の予防を図ることは可能だと考えております。
又、私達歯科医療従事者も、職業上不注意に金属の微粉末や蒸気を吸入すれば、アレルギー反応の機会も当然多くなるので、注意を怠らないようにしていきたいと思います。 |