4.27.2000

No.0041

黒い歯・白い歯

 皆さん?【お歯黒】ってご存知ですか?

 一般的には『既婚者(女性)の印』として、事情通には『虫歯予防の効果があった事』として知られている昔の風習です。江戸時代では、女性の身だしなみとして毎朝髪を結う事と共に行なわれていました。因みに、‘黒い色’の正体は‘タンニン酸第二鉄’の色素のことです。そして、この中の‘鉄分’が歯の表面で酸化防止の被膜となって虫歯になるのを防いでいたのです。

 そもそも【お歯黒】は、身分の高い者の証として海外から日本に伝わったものと云われています。南方諸島では‘ビンロウジュ’という実を噛む風習があり、この実を長い間噛み続けていると歯が黒くなってきます。‘ビンロウジュ’を噛む暇のある人は身分の高い人であるという図式が伝わったということです。そういった訳で、当初は一般庶民は行なわず、武家の侍以上が行い、女性に限らず男性も【お歯黒】をしていたようです。そして、『既婚者(女性)の印』として結婚式の日にお歯黒をするようになったのは、幕末からのことだそうです。

 さて歯科医療現場では、ここ最近の美白ブームに乗ってか、美容の一部としての『白い歯』が、にわかに脚光を浴びるようになって来ました。‘現状の維持’や‘自然な色調の回復’といった従来のやり方から、更に一歩も二歩も進んで、より美しくより白くといった事を望む方が増えてきているようです。平安時代に高い身分の証としてごく一部の人達によって行なわれたお歯黒が、江戸時代には女性の身だしなみとして広く一般に伝わり定着していった様に、一昔前までは知るひとぞ知るといったレベルだった歯のエステ(ホワイトニング、漂白)もやがては誰もが当たり前の事としてするようになるのかもしれません。【美】の定義は、時代と共に大きく変化するものですね。平安時代、江戸時代の美人画が近代・現代の美人画とは一致しない様に、歯に対する美意識も『黒い歯』から『白い歯』へと対極にあるものへと一変してしまいました。

 しかし、一方では“歴史は繰り返す”の格言もある様に、90年代に60年代のファッションやメイクが流行ったように、『古い流行もの』は『古いもの』として簡単には片付けられないどころか、何時どんなきっかけで再び流行りだすかわからない、といった面もあるに違いありません。そう考えると、「『お歯黒』は復活しない」などと、誰が断言できるでしょう?。

***とある未来の、とある歯科診療室での会話***

患者さん「先生、私、最近、歯の色が気になってしかたがないんですけど、どうにかなりませんか?」

歯科医師「その歯は、いつ頃治療されました?」

患者さん「だいぶ昔です。」

歯科医師「そうでしょうねー。今は、こんなやり方はしませんからね。じゃあ、きれいに治しましょう。」

と、微笑む歯科医師の口元からお歯黒が覗いていた。

・・・なんて未来。

少なくとも私の目の黒いうちは、『黒い歯』は見たくないですけど。
さて、皆さんは如何でしょう?。


神部先生

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