現在、私の歯科医院では訪問歯科診療を行っております。実際に寝たきり老人の訪問診療を行っている体験から、今回はお話をしてみたいと考えました。
今年の4月から、いよいよ介護保険が実施されようとしています。実際のところ未だになかなか万全な準備には到っていないようです。この在宅介護という課題には、2つの視点がある事をちゃんと認識しておかねばいけません。それは、「介護を受ける立場の方〔以下は被介護者という〕の気持ち」と「介護をする立場の方(家族又は身内もしくは同居人)〔以下は介護者という〕の気持ちです。【在宅介護支援の業者】の事は別問題ですので、この際わきに置いておきます。
理想を言えば、被介護者の気持ちを全て満足させられる介護を介護者がしてあげれば一番良いのでしょう。しかし、現実には理想とはかけ離れているのが現状です。個々のケースで、実状に合わせて互いの折り合うバランスを取って行くしかありません。が、その実状はと言いますと、どうしても被介護者への介護内容が、介護者の方の都合に合わせられがちになっています。そこに、被介護者と介護者との気持ちに少しずれが生じているのです。私は、介護内容のバランスが少し介護者の都合に寄っていることを、非難しているのでは決してありません。実状をありのまま知っておくべきと考えるからです。そこからより良い工夫も湧いてくると考えるからです。
『介護』と言えば、被介護者の健康維持が最大の課題とされています。それによって、とかく《内科的視点(血圧はどうだ?,尿はどうだ?,食欲はどうだ?,神経痛はどうだ?等々》で、考えてしまいがちです。この様な観点は、生命維持装置にがんじがらめに生かされる(入院患者)植物人間の扱いに、どこか似ているように思えてなりません。介護においても、人間としての尊厳を損なわせる様な被介護者の扱いを決して行ってはいけないと考えます。
人間の尊厳とは何でしょう。それは壮大な問題ですので、今正確なことは言い尽くせないでしょう。その一部としていえることは、『人の快感の原点を知って事にあたるべきである』ということです。『人の快感の原点』とは、食べ物を好きなだけ美味しく【口から食べる】こと,排便排尿を心地無く好きなときにすること,体を清潔にすること(入浴すること),寒さ暑さに苦しめられないこと,人とのふれあいで適度な刺激を受けること,等々であると考えます。
さて本題です。
人も尊厳を最も尊重すべきであるならば、被介護者である老年者の方々のお口の具合をベターにしておくことは、とっても大切なんです。でもなかなか介護者の方には解っていた抱けにくいのです。会話が不自由になってしまった寝たきりの被介護者の方の悲痛な訴えを、聞き逃してはいけないんです。
と、考えて今日も往診に出向いていく私です。 |