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6.27.2002

No.0154

宇宙時代の歯科!?

 私が子供の頃、宇宙旅行や宇宙ステーションでの生活はSF(サイエンスフィクション)のお話でした。
 ところが今や、去年カリフォルニアの実業家デニス・チトー氏はロシア宇宙開発局のロケットに乗り世界初の民間人による宇宙旅行を実現しました。又、西暦2006年(後たったの3年余りです)には国際宇宙ステーションが完成するとのことです。今世紀中には、一般の人でも宇宙旅行が出来る様になると言われています。
 SFの世界の話が何とも現実味を帯びた話になってきました。

 最近では多くの日本の旅館やホテルでは部屋に歯ブラシが用意されていますので、旅行に行く時に自分で歯ブラシを持っていくことも少なくなりましたが、海外旅行やキャンプ、泊りがけの登山などでは必需品と言えます。この歯ブラシは前述の宇宙旅行では殊更重要となります。

 以前新聞にも載りましたのでご存知の方もおられるかも知れませんが、国立感染症研究所によると、マウスを飛行機に乗せ色々な重力の状態を体験させて口腔内の虫歯菌(ミュータンス連鎖球菌)の増減を調べたところ、無重量状態のときは地上にいるときと比べて約40〜50倍以上に増える事がわかったそうです。この様に虫歯菌が増えてしまう理由は、どうやら唾液の流れと量の変化にあるようです。通常虫歯菌は唾液によって歯面から洗い流されますが、無重量状態では唾液が歯面に留まる割合が高くなる為虫歯菌も流されず、その場でどんどん増殖してしまうのだそうです。又、無重量状態では唾液の分泌量も減少すると言う事ですから、歯ブラシが無ければ、虫歯だらけになるのは必至ですね。

 宇宙で食事の変遷を調べてみると、アポロ計画時代(1969〜1972)になって【歯ブラシ】が登場します。では、宇宙での『歯磨き』は、どのようにされていたのでしょう?。
 無重量状態でも歯ブラシと練り歯磨きを使い、普通に歯を磨く事が出来たそうです。問題は口をゆすいだ後の水の始末です。地上であれば洗面台に向かって吐き出せば済みますが、無重量状態ではそう簡単にはいきません。吐き出した水は球になって空中を漂ってしまい、この水が宇宙船の機械の中に入ろうものなら回路がショートしてしまい、それこそ命取りになりかねません。
 そこで、宇宙飛行士は口をゆすいだ後の水を飲み込んだり、口の中にタオルを入れて水を吸い取ったりと大変な苦労をしていたようです。
 NASA(アメリカ航空宇宙局)では、泡が立たず水でゆすがなくてもよい(そのまま食べられる)練り歯磨きを開発しているそうですが、それにしてもご苦労な事です。

 話は少しそれますが、宇宙で歯が痛くなった場合は、鎮痛剤を服用するか、それでも効かない時は歯を抜くそうで、宇宙飛行士はフライトミッションに向けての大変な訓練の最中、歯を抜く訓練もしているそうです。全く以ってご苦労な事です。

 最先端のテクノロジーに囲まれた宇宙船内や宇宙ステーションであっても歯ブラシは地上と同じで、しかも地上では当たり前の事が出来ずに四苦八苦していると言うのは何とも微笑ましく(宇宙飛行士さんごめんなさい)、自分とは縁遠いと思いがちな宇宙が身近な存在に感じられるのは、私だけでしょうか。

 宇宙飛行士の選考基準に、普通食を十分に噛める歯を持つ事、明確に発音できる事、という条件があるそうです。虫歯だらけであったり、歯槽膿漏が悪化していたら、それだけで宇宙に行く資格がなくなるのです。
 宇宙旅行が夢物語ではなくなった21世紀、その日の為にも日頃のお口のお手入れと、歯科医院での定期健診をお忘れないようお願いします。
  (決して『こじつけ』ではありません。何卒誤解のないように。)

 余談ですが、このコラムの原稿を私の妻に見せながらした夫婦の会話です。
 著者:宇宙旅行帰りの患者さんが増えるだろうから、スペースシャトルの発着場に
     歯科医院が出来たら繁盛するだろうなー。
 妻君:その頃には宇宙ステーションの中にも歯医者さんがいるだろうし、
     今の駅前みたいにスペースシャトルの発着場の周りには、
     歯医者さんが沢山出来るでしょうから、今と変わらないでしょ。

 お後がよろしいようで・・・、御精読ありがとう御座いました。



神部先生

 

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