歯槽膿漏(しそうのうろう)や虫歯を予防するためには、‘正しい歯磨き’をするのが一番大切だということは、みなさんも既にご存知のことと思います。
ところが、総入れ歯になった人の中には「入れ歯だから、お口の清掃をしなくてもよい」と勘違いをされている方もおられます。入れ歯に対しても、自分の歯と同様に清掃が必要だということを今回はお話をしたいと思います。
希に、「入れ歯は自分の分身だから、今まで外したことなど無いです。」という患者さんがおられます。
しかし、その様な人の入れ歯をはずしてみると、入れ歯の裏(歯肉と接する部分)には食ベカスなどがべっとり付いて異臭を放ったり、入れ歯に覆われる歯肉は真っ赤にはれて所々出血しているようなこともあります。
これは義歯性口内炎の進行した症状です。義歯性口内炎は、手入れの悪い入れ歯の下にたまった食べ物のカスに細菌が増殖したもの【Denture
Plaque(デンチャー プラクー)】が原因です。
【Denture Plaque(デンチャー プラーク)】からは、‘カンジダ’という真菌類(カビの仲間)が多数検出されます。この真菌が入れ歯の下の粘膜に炎症を起こし、赤くなったり出血などの原因になるのです。
多くの場合、義歯の下の粘膜が一部赤くなっている程度の状態ですが、身体の抵抗力が低下したとき、粘膜がはれ義歯の縁に当たって痛みが出てくることがあります。
健康な歯肉は適度な弾力性があるため、義歯を入れていろいろなものを噛んでも傷がつくことはありません。ところが義歯性口内炎の症状が進行すると、この歯肉の弾力性が失われたり、いろいろな刺激に対する抵抗力が弱まるため、食事を十分に楽しめなくなります。
私たち歯科医師は患者さんの入れ歯を作る際、装着したときにプラークが付着しにくい形になるよう、また清掃しやすい形にするように配慮して設計しています。しかし入れ歯に使用する素材はまだ完全ではありません。
例えば、入れ歯の大部分を占める床用レジン(ピンク色をした、歯肉に相当する部分)には、肉眼ではみえない小さな穴がたくさんあいています。この小さな穴の中にカンジダ菌が容易に入り込み、ブラシで洗っても取り除くことはできません。
そこで実行してほしいことは、入れ歯洗浄剤の使用です。入れ歯洗浄剤は歯科医院以外でも、薬局やスーパーで簡単に購入することができます。ブラシで除去することができない細かい部分の汚れをとったり、カンジダ菌などを殺菌する薬剤が含まれていて、入れ歯の洗浄に威力を発揮します。
総入れ歯の方は特に、就寝中は入れ歯をはずして洗浄剤につけておくことをお勧めします。
超音波による義歯洗浄器も発売されていますので、利用すると更に良いでしょう。
食事に使った食器はどなたもきちんと洗ってかたづけます。
入れ歯も食器と同じように毎食後、丁寧に洗ってあげましょう。
虫歯や歯周病予防の為のプラークコントロールと共に、『入れ歯のプラークコントロール』の必要性も、今注目されているのです。
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