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4.4.2002

No.0142

苦あれば楽あり

 全くもって私事ですが、ここ最近花粉症ということもあってか、夜なかなか寝付かれず又眠っても疲れが取れないということが続きました。その事を旧知の悪友にに話すと「そりゃー枕が悪い!」と即座に言われました。「他人事だと思って適当なこと言いやがって・・・」とは思ったのですが、あまりにも自信満々に言うので「ん?そうなのか?」と不覚にも思ってしまいました。
 さりとて相手が相手だけに話を鵜呑みするのも、どうしてなのか教えを請うのも癪でしたので私なりに色々調べてみました。十分とはいえないかもしれませんが、その結果をご紹介します。
 自分にとって一番楽で落ち着ける姿勢で寝ているつもりでも、実際には体に大変な負担のかかる寝方をしていることは案外多いのだそうです。ご存知の方もおられるかもしれませんが、人間の背骨は直立状態にあるとき、横から見ると、首から腰にかけて緩やかなS字状のカーブを描いています。望ましいとされる寝ているときの姿勢はこの背骨のS字状のカーブを保つことなのだそうです。そうすることによって、筋肉に過剰な負担がかからず、身体の各部にかかる重力は均等になり、血流も一定になることから、疲労物質の分解が促進され、その結果疲れも取れやすくなる、ということです。
 理想的な枕の形は、このようなS字状の背骨の姿勢を崩さないようにサポートできるものですが、合わない枕を使っていると、背骨を歪ませ、首・肩の凝りや腰痛を引き起こすことがあるようです。
 後日専門店に行って、安眠枕なるものを購入して使ってみたところ、最初は違和感があり寝ていて窮屈なように感じて「こんなに違和感があってもいいのかねー?寝る時くらい好きなようにさせてくんないかね。」等と憎まれ口をたたいていたのです。
 ところが、初めのうちは違和感が強かったのですが、何日か使っているうちにウソのような効果を感じてきました。
 勿論、個人差があるでしょうから万人に効果があるとは言えないのでしょうが・・・。 『楽に感じる状態』が身体に良いとは言えない事もあり、『身体にとって良い状態』にするには『苦しく感じる』こともしなければならないものだと痛感しました。

 さて、診療所にお見えになる患者さんの中に、かなり昔に作られたと見受けられる義歯の破損や不調を訴えてお見えになる方がおられます。大抵の方は「壊れちゃったけど入れてて痛くないから、とりあえず壊れた所だけ直して欲しい。」と言われます。しかしその義歯を拝見すると、人工歯(入れ歯の歯に相当する部分)が半分以下に磨り減っていたり又はほとんど無くなっていたり、、義歯床(歯茎に当たる部分)が継ぎ接ぎの様になっていて、中には市販の入れ歯安定剤で辛うじて形を保っているような状態であることも珍しくありません。新しい入れ歯を作っても、痛くて入れられないとか、馴染めないからといった理由で使わなかったり、捨ててしまったりという方もおられることを考えると、こんなになるまで愛着を持って使って頂ければ歯医者冥利・歯科技工士冥利に尽きるな〜等と思う一方、余計なお世話と言われてもこのまま放置する訳には行かないぞと言う気持ちになるのは歯医者の性でしょうか。

 下ろし立ての靴より普段履き慣れた靴のほうが歩き易いというのは多くの方にご賛同頂ける事だと思いますが、幾ら履き慣れていて楽だからといっても、靴底が極端に片減りしていたり、靴底がほとんど無くなるほど減っていたら、足・膝のみならず腰まで悪くしてしまいます。
 同様に入れ歯も、仮にそれが痛くなく使える状態であっても、人工歯が磨り減っていたり義歯床が割れていたり変形していて適合が悪かったり等の問題があれば、自覚症状がないままに顎関節・咬合関係(噛み位置)・義歯床下粘膜(入れ歯が当たる歯肉)を悪くしてしまう事が多いのです。

 瓢箪から駒のようですが、旧知の悪友の助言は日頃忘れがちになっていた歯科医師としてのあり方の教訓を得るきっかけとなりました。
 新しい入れ歯を作る事を躊躇される患者さんに対して私はこう言います。
  「『楽に感じる状態』が身体に良いとは言えない事もあるんですね。『身体にとって良い状態』にするには『苦しく感じる』こともしなければならないんですね。私も一生懸命お手伝い致しますから、お口に合った良く噛める入れ歯を作っていきましょう。」



神部先生

 

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