10.14.1999

No.0013

昔のムシ歯予防

 皆さんのなかで、東京上野の国立科学博物館で開催された「大顔展」をご覧になれた方はおられますか?今回のお話は、先日私が訪れたこの展覧会でのことについてのことなんです。 展示コーナーのひとつに、「お歯黒」をしていた最後の人と言われている、おばあさん(今から20年前で96歳)が「お歯黒」を実演している貴重なビデオが流れてました。私はその見事な手つきに見とれ、しばし足を止め見入ってしまっていました。

 この「お歯黒」という風習について歴史の記録をひもとくと、約二千年前の中国の「魏志倭人伝」においては「東方に黒歯国あり」と書かれており、「源氏物語」などでは『天上人の化粧』とされ、かの豊臣秀吉も「お歯黒」をしてたといわれております。この「お歯黒」は武士の間では忠節を表わし、既婚婦人は夫に対する貞節の印としたもので、徳川時代の末期には【お歯黒道具】は欠く事のできない嫁入道具のひとつだったそうです。

 実はその「お歯黒」こそが、『ムシ歯予防』という古人の知恵だったと言われています。
 そこでちょっと科学的に見てみましょう。「お歯黒」の何が虫歯の予防になっていたのでしょう。お歯黒の成分にはタンニンという物質が含まれています。この「タンニン」は歯質タンパクの腐敗防止になります。又「お歯黒」に使われる「酢酸第一鉄の溶液」はリン酸カルシウムを強化し、歯を保護する役目を果たします。それに、週に1〜2回お歯黒を着けないと、色むらができてしまうのでたいそう気をかけていたそうで、着ける前に「歯の汚れ」を丹念に取っていたそうです。このことも自然とムシ歯予防になっていたのでしょう。

 ちなみに、そのビデオに映されていた『96歳のおばあさん』のお口の状態(歯の健康状態)は、50歳代の状態だったそうです。それにしても、とても96歳とは思えない肌の艶や姿勢の良いおばあさんでした。そしてそのおばあさんは、歯を大切に手入れを欠かさない生活が、如何に「健康の源」であるんだということを身をもって証明してくれているんだなあと、私は感銘を覚えるのでした。


深井先生

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