最近、私の祖父と妻の祖父が相次いで入院し、「週末は、お見舞い通い」という生活が続いています。
私の祖父は、現在101才です。その祖父の姉も105才と健在で、二人は評判の長寿兄弟です。1年程前に、祖父に会う機会がありました。その時は、やや耳が遠くなってはいましたが頭はしっかりしており、相変わらずのヘビースモーカーで、久しぶりに私と話せた事を喜んでくれていました。
その祖父が最近食事も喉を通らなくなり、肉体的にも精神的にも衰弱が目立ち始めた為急きょ入院したと知らされたのでした。このままだと老衰してしまうかもしれないと聞き、幼い頃からお世話になった祖父に是非会っておきたいと思い、すぐさまお見舞いに行きました。
病室の祖父は元気だった頃の面影は全く無く、やせ細った体をベッドに横たわらせていました。ご自慢の入れ歯は、ベッドの横のキャビネットに置かれたままでした。体の痩せるのと比例して顎も痩せてしまったせいでしょうか、入れ歯はその役目を果たせなくなっていました。「ああ、早く死にたい。」と弱音を言う祖父に胸が詰まる思いでした。
せめて、もう一度食べることの喜びを味わってもらえればと、置かれたままの入れ歯を修理しようとすると、担当医に「勝手な事はしないでほしい。」と嗜まれてしまいました。後日お見舞いに行くと既に鼻チューブを入れられていました。入院当初祖父があまりに食事をとらない為、担当医師は鼻チューブによる強制栄養補給を行うことにしたようです。多分、自然死に向かわせようとしてたのでしょう。ですから、修理も調整も敢えて認めなかったのでしょう。このコラムを書いているさなか、その祖父も8月24日亡くなりました。
妻の祖父は、現在87才です。東京の警察署の署長をされてた律儀で頑固な方だそうです。お仕事を辞められてからもお元気だったのですが、今年の6月に突然脳梗塞でたおれられ、緊急入院されました。私の祖父よりはまだ若いせいか、幸い現在は言葉が出るまで回復してきています。始めてのお見舞いに行った時、「入れ歯が落ちて困っている。」と伺っていたので、上下の入れ歯を修理してさしあげました。その後すぐに奥様(祖母)の手作りの大きなおはぎを2個もたいらげられたそうです。私が再びお見舞いに言ったときには「食べられるようになって良かった。」と喜んでくれました。
余談ですが、その病院の訪問歯科医師は、週に一度の割合で診てくれるそうですが、同室のご老人の方々も噛めそうな口元をした方は少ないように思えました。
今や『コンビニよりも多い歯科医院』と揶揄されるほど歯科医院は何処にでもあります。でも、楽しみである食事が苦痛になってしまっている祖父達を目のあたりにして、あらためて色々考えさせられました。歯科医院へ行きたくても行けないで困っている人が、まだまだ沢山居るということに驚きとも言える思いをさせられました。
【患者さん中心の医療】にする為に、歯科医師自身も今までの概念を越えて、診療体制や、材料の流通を変え、地位や名誉にとらわれない、意識を変え、実際に行動を起こす時期にきているのではないでしょうか。
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