「和弘!!よく咬んで食べなさい。」
「よく咬まないと栄養に成りませんよ。」
「それにお腹を壊しますよ。いいですね。」
幼い頃の私は、食事時ともなれば母にこう言ってよくしかられたものでした。我が子可愛さ故の躾の一環だったのでしょう。コラムの読者の皆さんの幼い頃、この様に言われた方も少なくはないでしょうか。
ところで、この「よく咬んで食べなさい。」と言う言葉は、単なる躾だけでなく、歯科医師の立場からも、これは‘お口の健康’ひいては‘全身の健康’の為に、『とても理にかなった言葉』だと言えることなんです。
近年では、食物に火をよく通したり、細かく切ったりと、柔らかく食べやすく調理されています。つまり、歯をあまり使わなくても食べられるようになっています。しかし、歯はやはり使わなければ虫歯や歯槽膿漏(しそうのうろう)になりやすいといえます。
数百年前の昔の人の歯を見ると、噛み合わせによって歯がすり減っていたり、顎が丈夫に発達していたりします。そして虫歯や歯槽膿漏も見あたらないそうです。その頃の食生活は今日のそれと比べると固くて歯ごたえのあるものだといわれています。つまり、昔の人はよく咬んで食事をした、といえます。
そこで、「よく咬む」ということを考えていきたいと思います。
まず食物をよくかみ砕くことで、胃腸の消化吸収機能を助けます。これは、唾液も十分に分泌され唾液と食物をよく混ぜ合わせる事にもなります。唾液は消化液の一つでもあるので、こういうことだけでも胃腸を助けます。また唾液は、口の中の細菌のバランス、調和を図るという役割も果たしています。虫歯菌などの口の中の悪玉菌の増殖を抑制し、口の中の健康を保ちます。唾液が減ると虫歯、歯槽膿漏、口内炎になりやすくなるのは、このためです。
次に、「よく咬む」ことは顎の力を強くし、顎の発育を促します。顎の力があれば固いものもよく噛めるので、歯ごたえのあるものもどんどん食べられるようになります。また顎が大きくなれば歯の並ぶスペースが確保され、ガタガタした歯並びになりにくくなります。歯並びが悪ければ、歯ブラシが行き届きにくくなり虫歯、歯槽膿漏になりやすくなりますし、噛み合わせも悪くなるので顎関節症になる確率も高くなるということにもなります。
そして、過食や肥満予防、ダイエット効果も期待できます。よく咬んで食事をすると、必然的に食事に時間がかかります。満腹感は食事を始めてから30分ほど経ってから感じるので、ゆっくり食べれば少ない食事量で満足できるのです。
これらの事を考えると、歯、口の健康、全身の健康のためにもよく咬んで食べるということは重要であるといえます。また、歯も身体の一部であり、蔑ろに出来ない事が分かると思います。
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