第二次世界大戦の終戦後五十年間に、私たちの日本は敗戦国でありながら目覚しい発展をとげることができ、世界で最も『経済的に豊かな国』になりました。それと共に、世界で最も『長寿の国』になりました。これは医療の技術が格段に進歩したことに加えて、日本国独自の社会保険制度の充実で、国民全員が全国どこででも高度な医療を受けることができるようになったからだと思います。
しかし世紀も変わり、高度経済成長の時代に於いて目標とされていた、『量の医療』から個人個人に合わせられる『質の医療』を求められるようになってきました。その現れの一つが、最近のテレビや新聞などでよく目や耳にする【QOL(クォリティー・オブ・ライフ)】という言葉です。
これまでの医療は、「命を救うこと」を最優先し、多くのエネルギーを注いできました。だから最長寿国というすばらしい成果をあげることができましたが、一方で、植物人間とか尊厳死などの新しい問題を生むことになってしまったのです。
高齢化社会を迎えるなかでいくら長生きできるようになっても、ただ生きてりゃいいというのでは、人生はつまらないと思います。そこで、今日の医療の目的も、救急救命だけではなく、生活の向上を課題とするようになってきました。つまり「生きているヒト」から「生活する人間」を対象とするようになってきたのです。
従来、歯科医療は、痛みをなくしたり、よく噛めるようにしたり、入れ歯を入れることで、食事をおいしく食べられるように治療してきました。また歯並びを治して美しい口元にすることで、楽しいおしゃべりができるようになって、人生が充実したと言う方もたくさんいらっしゃいます。このように、歯科医療は、他の医療分野に先駆けて、豊かな食生活・快適な対人関係など、人々の「生きがい」に直接かかわってきました。つまり時代を先取りした、クォリティー・オブ・ライフ(生活の質の向上)のための医療分野であったわけです。
年をとると、体の自由もきかなくなって、「食べるのが生きがい、友達とおしゃべりするのが生きがい」という人も多いと思います。みんなと一緒に楽しく食事をして、食卓を囲む家族の団欒に加われるかどうかは、高齢者にとって、家族の一員としてのアイデンティティーの重要な要素だと思います。
高齢者のクォリティー・オブ・ライフ追及のために、歯科医療の果たす役割は今後ますます重要になってくるのではないでしょうか。
又、患者さんからのご要望もどんどん質の高いものになってくると思います。そのご要望にできるだけ答えられるように私たちも努力していきたいと思います。
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